2012年7月13日金曜日

ビートが聞こえてくるような演奏 —— ゴロー・ベルク指揮の九響


 九響第318回定期「ゲルマン音楽の神髄」を聴いた(7月9日、アクロス福岡シンフォニーホール)。曲目はモーツァルト《魔笛》序曲、《ピアノ協奏曲ニ長調K.537「戴冠式」》、ベートーベン《交響曲第3番 英雄》。指揮はゴロー・ベルク、ピアノは菊池洋子。
 コンサート名での「ゲルマン音楽」とは何のことか、よく分からない。モーツァルトはゲルマンというよりもラテンの香りが濃厚だし、ベートーベンはオランダ系で、狭義のゲルマンではない。指揮者がドイツ人ということで「ゲルマン音楽の神髄」なのか。なにか発想がイージーだ。
 さて、このコンサートの個人的なお目当てが実は《戴冠式》。第2楽章のラルゲットの主題が私の高校生時代にテレビの化粧品CMで流れていた。若いきれいなお母さんが、幼い我が子が遊んでいるのを見守っていて、その子がお母さんのところに駆け寄るとそっと抱き寄せる。そこにこの主題が寄り添うように流れる。もう、最高だった。その思いが残っていて、実は自分の結婚式での新郎新婦の入場の音楽に、この主題を知人のピアニストに弾いてもらったことさえある。
 ベルクの指揮はパキパキという音がまるでビートとして聞こえてくるかのような演奏。活力を感じさせる演奏と言えないこともないが、味わう間もなく音楽が次々と進行していく。当然のことながらテンポも全体的に早め。また異様に低音楽器が強調されているし、木管楽器の音量が抑えめで、管弦楽としての響きのバランスが取れているようには思えなかった。ちなみに私の席は1階25列(やや後ろ寄り)の30番(やや上手寄り)。
 菊池のピアノは軽やかで表情の変化に富んでいて、まるでジャズピアノを聴いているかのよう。それ自体はなかなか魅力がある。ただ、この協奏曲では、ベルクの指揮との関連で、テンポが早め。特に私が個人的にお目当てにしていた第2楽章は、ラルゲットではなくてまるでアレグレット。「違う、おい、違うよ」と、演奏中、心の中で叫び続けていた。
 ベートーベン《英雄》も同様にテンポが速め。特に第1楽章が始まった時に、その速いテンポに驚いた。そして危惧した。案の上、推移部後半のタンタタ・タンタタ・タンタタという八分音符(タン)と十六分音符二つ(タタ)の組み合わせによるリズム音型が明確に演奏されていなかった。この音型はこの楽章間に何度も登場し、この楽章の運動性をもっともよく感じさせる魅力ある楽節を形成する。ベルクの指揮でテンポの速さによってこの音型のリズムのキレがなくなってしまった。
 第2楽章では冒頭の低音弦の複前打音が目立ちすぎて小節の1拍目がきれいに揃っているようには聞こえない。ここでも低音楽器が強調されていて、全体の音量バランスを崩している。また中間部での3つの声部の対位法的絡み合いが聞こえる部分も楽器間の音量バランスを欠いて、個々の声部が独立して聞こえない。特に二分音符による声部が目立たない。これを目立たせると、十六分音符による声部の動きが大変活き活きと聞こえてくる筈なのだが。
 第3楽章では逆にベルクの速いテンポが上手く機能した。
 第4楽章になるとベルクのテンポに慣れてきたのか、さほど違和感なく聴いた。ただし、ここでも楽器間の音量バランスを調整して聴かせるべき声部を浮かび上がらせてほしいと思うところもあった。ト短調のリズミカルな楽句が続くところにフルートの音階進行音型(リズミカルな楽句を対位法的に強調する音型)が相の手を入れる箇所において、そのフルートの音が他の楽器に埋もれてしまっていた。
 総体的な印象としては「聴き逃せない指揮者」(音楽之友)に選ばれるほどの注目を集める指揮者と思うことはできなかった。
 こうして聴き終えると、ベートーベン《英雄》は本当に名曲だということをあらためて感じた。特に第2楽章。他の指揮者の棒で聴いてみたい。
(中村滋延)

2 件のコメント:

  1. ベートーヴェンの交響曲第3番についての批評では、特に「テンポ」のことを中心にお書きになっていますが、一つお聞かせください。
    例えばベーレンライター新全集などでは、ベートーヴェンが記入したとされるメトロノームテンポを元に改訂が施されています。それによると、ベートーヴェンが記入していたテンポは、我々が今日耳にしているような一般的なテンポよりも速いことが指摘されています。
    その点に留意したうえで、ベルクと九響の解釈によりテンポが設定されたのか、はたまたやみくもに速いだけであったのか気になるところであります。記事の方からはうかがうことができなかったので、お教えいただけると幸いです。

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  2. コメントありがとうございます。
     ベートーベンのメトロノームテンポは非常に早いことが指摘されています。昔(といっても40年前以上です)、園田高弘と諸井誠の実演付きの対談を聴いたことがありましたが、もっぱらベートーベンのメトロノームテンポについての指示が話題になっていました。交響曲第6番の第一楽章などは四分音符=132です。その通りには演奏不可能です。第3番についてはメトロノームテンポを事前に確認しそびれています。したがって、ベルクの演奏はやみくもに早い、と感じました。第一楽章の聴き所と私がとらえている「タンタタ・タンタタ・タンタタ」の音型が速すぎて鮮明に聴き取れなかったのですから。
     なお、作曲家は一般的にメトロノームテンポを速く設定するように思います。(私自身も作曲家ですから)

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